平成21年度 幹事長 坂巻國男 退任挨拶

激動の一年を振り返って……

平成21年度法曹親和会
幹事長 坂巻 國男

坂巻 國男1.今年も桜の季節となりました。昨年の桜の花のもと、「法の支配を社会の隅々にまで」との理念のもと制度設計された司法制度改革の諸制度が実施、実行される中、新しい幹事長選出方法による三人目の法曹親和会の幹事長に就任することになり、その責任の重大さに身も引き締まる思いで就任して、早、1年が過ぎようとしています。

退任にあたり、この激動の一年を振り返ってみたいと思います。

2.法曹親和会は、60有余年という長い歴史と伝統を有しており、本年度は、かかる長い歴史と伝統を受け継ぎながら、法曹親和会の政策団体としてのあり様、法曹親和会としての会の組織強化、および、法曹親和会としての人事の活性化を掲げて活動してまいりました。

法曹親和会は、東京弁護士会内の政策団体として弁護士会内外においてその時々に生起する諸課題につき、時期を失せず、議論を重ね、適切な提言、意見を表明してきました。

政策団体としての活動は、正に、法曹親和会の命綱とも言うべきものであり、その活動の質の高さが法曹親和会のプレゼンスを高める途であると胆に銘じ、活動してきました。

3.ところで、今次の司法制度改革は、従前の司法制度を抜本的に変革するものであり、その司法制度改革が求める理念は、社会の隅々まで法の支配を行きわたらせ公平で公正な社会を作ることでありましたが、司法制度改革により改革された諸制度を実際に運用してみると、制度設計時には思ってもいなかった問題が発生し、それらへの対応が迫られております。法科大学院を含む法曹養成制度が当初の予定通り機能しているのか、司法過疎対策等を含む司法支援センターは充分にその役割を果たしているのか、裁判員裁判を含む刑事司法制度に問題はないのか、法曹人口の急激な増加により法曹の質に影響はないのか、司法制度の基盤は充分に整備されたのか等々への対応が求められており、それらに適切に対応できるのは、現実に、司法の現場で活動している弁護士であり、法曹親和会としても、これらの諸問題につき、適切な対応を求められるのは、当然のことであります。

4.そこで、本年度は、日弁連の会長人事を重要な活動方針として掲げ、年度当初より、司法界をめぐる諸課題につき、日弁連の政策策定、組織編成、活動体制等々についての協議を始め、法曹親和会の先生方は勿論、法友会、期成会の先生方を初め、一弁、二弁等々の先生方にも協力を仰ぎながら、その準備を進めてまいりました。平成21年9月10日には「司法と日弁連の明日を拓く会」の発足式を開催するところまで漕ぎつけましたが、諸般の事情により、その発足式を中止せざるを得ない事態により、法曹親和会の年度当初の大きな目標であった日弁連会長問題については、当初の予定を変更せざるを得ない事態に陥り、それまでご協力を頂いた先生方には多大なご迷惑をかけることになり、深く、お詫び申し上げると共に、そのご苦労に対し、深く、感謝申し上げます。

そして、その後の日弁連会長問題については、平成22年1月6日に選挙の告示があり、宇都宮健児先生と山本剛嗣先生が立候補され、激しい選挙戦となり、同年2月5日の投票の結果は、山本候補が9533票、宇都宮候補が8557票で、山本候補が得票数では上回りましたが、獲得会は、宇都宮候補が42単位会、山本候補が9単位会であり、全単位会の3分の1以上の単位会を獲得できず、同年3月10日に再投票が行われ、その投票結果は、宇都宮候補が9737票、山本候補が8294票、又、獲得会は、宇都宮候補が46、山本候補が6ということになりました。

法曹親和会としては、山本候補の支持決議をし、全面的に支援活動をしておりましたが、残念な結果となりましたが、先生方のご支援、ご協力に対し、心より、お礼申し上げます。

5.本年度は、前記の通り、本年度の最重要課題である日弁連会長問題への認識、および、前年度から議論されていた民法改正問題につき特化した議論を重ねる必要があったため、研修委員会の安藤建治委員長のもと、綿密な準備を重ね、例年通り、多数の会員の先生方のご出席を頂き、箱根湯本で夏期合宿を行い、全体討論では、高中正彦先生が進行役となり、「司法改革のさらなる前進をめざして」とのテーマのもと、司法改革の現状と今後への取り組みにつき意見交換を行い、知識、認識の共有化を図り、日弁連のあり方につき意識の共有化を図りました。又、二一会、法曹大同会、東京法曹会には、民法改正の問題点につき研究発表をして頂き、又、親和全期会には、「どうなっちゃうの? 民法(債権法)改正」のテーマのもと、今なぜ民法改正なのか、今後の改正スケジュールはどうなるのかにつき解説を頂き、更に、民法改正が行われた場合の実務への影響につき寸劇方式での発表をして頂き、「民法(債権法)改正検討委員会」が発表した「債権法改正の基本方針」の問題点、および、それに対する対処等につき研鑚を重ねることができました。

6.又、本年度は、法曹親和会内に、会務委員会を設置し、委員長に安藤良一先生が就任され、同委員会内に、政策綱領部会、司法支援センター部会、刑事司法改革・裁判員制度検討部会、民法改正問題PT、法曹人口・東弁将来構想PT、憲法問題・外弁問題PT、公益活動等検討PTを設置し、それぞれの諸課題につき、後記の通り、議論を重ね、その成果を会内外に発表してきました。

政策綱領部会は、関本隆史部会長のもと、前記各部会、各PTの議論を踏まえ、更に、憲法問題、弁護士の業務基盤、裁判官制度、弁護士自治、弁護士の人権活動、東弁の会内問題等々、司法を取り巻く諸問題につき、議論を重ね、これを政策綱領として取りまとめ、会務委員会で審議し、「われわれはこう考え、こう動く 2010」という政策綱領を編纂、発行しましたので、今後の政策協議の場で、これが有効に活用されることを期待しています。

7.「民法(債権法)改正検討委員会」が「債権法改正の基本方針」を発表し、しかも、法務省が法制審議会に民法(債権法)改正を諮問するとの動きがあったこともあり、民法改正検討PTは、戸部秀明座長のもと、民法は私法の基本法であり、国民の社会・経済生活を規律する根本となる規則であり、その改正は、国民生活に多大な影響を及ぼすものであるとの認識のもと、民法改正の必要性、民法改正の手続のあり方、民法改正の問題点等につき、議論を重ね、平成21年10月に「民法(債権法)改正に関する意見書」を取りまとめ、これを東弁、日弁連に執行しており、これが有効に利用されることを期待しています。

8.裁判員裁判が平成21年5月から開始されたことを受け、刑事司法改革・裁判員制度検討部会の遠藤常二郎部会長のもと、裁判員裁判の第1号事件で実際に弁護人を担当された二弁の伊達俊二先生を講師にお招きし、「第1号裁判員裁判を振り返って」とのテーマのもと、公判前整理手続、公判準備、公判審理、弁論の準備、今後の課題等につき、パワーポイントを使い、ご苦労された点などにつき、具体的なご指摘を踏まえ、ご講演をして頂き、裁判員裁判への取り組みの難しさ、重要性につき、勉強させて頂きました。

又、平成20年12月1日以降に起訴された事件から適用されている刑事手続における被害者参加制度につき、被害者参加を実際に担当されたことのある渡瀬耕先生に、被害者参加制度の概要、被害者参加する場合の具体的問題点、および、刑事手続の成果を利用するいわゆる損害賠償命令制度につき、ご講演を頂き、被害者参加制度、損害賠償命令制度につき、理解を深めさせて頂きました。

9.法テラスの前線で活躍されている若い先生方の激励と現場での問題点を検証するため、司法支援センター部会の横塚章部会長のもと、法テラスの岐阜を訪問し、法テラス岐阜法律事務所、法テラス加児法律事務所のスタッフ弁護士との意見交換および懇親会を行い、法テラスの問題点、スタッフ弁護士の悩み等につき、忌憚のないご意見を伺いました。

又、法テラスの現状と法テラスの利用の仕方等につき認識を深めてもらうため、「ここが変だよ、法テラス」のテーマのもと、吉野高先生をコーディネーターとし、法テラスに係わりの深い及川健二先生、渕上玲子先生、林史雄先生、武藤暁先生をパネラーとしてお招きし、パネルディスカッションを行い、法テラスの問題点等につき、理解を深めました。

10.法曹人口が増加する中で、東弁の総務委員会で東弁将来構想を議論していたこともあり、法曹親和会としても、法曹人口・東弁将来構想PTを設置し、木下秀三座長のもと、法曹人口が増加する中での東弁の将来のあり様につき議論を重ね、特に、若手会員が急激に増加した現状および増加するであろう将来を踏まえ、若手会員の視点から、東弁のあり様につき、若手会員の会への帰属意識を高めるための視点、若手会員の業務基盤の安定のための視点、および、若手会員の業務の質を高めていくための視点から、その具体策につき、検討を加え、平成21年12月にこれを「提言書」に取りまとめ、東弁に執行しましたので、東弁が東弁将来構想を検討する際、貴重な資料となると考えています。

11.弁護士人口が急増する中、若手会員はもとより弁護士全体にとり、弁護士業務基盤の拡充は重要な問題であり、弁護士業務委員会は、金井重彦委員長のもと、弁護士の業務拡大の具体的方策につき議論を重ね、弁護士の活躍が期待される職域として、政策秘書、法テラスのスタッフ弁護士、日本のADRの国際的拡大、地方公共団体の訟務、公証人、執行官、海事関係、薬事関係、企業内弁護士等をあげ、又、職域拡大に向けて弁護士会自体も充実した広報体制を構築すべきである、とする有益な意見の取りまとめをして頂いており、今後は、これをどう具体化していくかを検討する必要があります。

又、弁護士増員時代を迎える中、研修委員会の栗林勉新委員長のもと、法律事務所の運営のあり方、法律事務所でのIT化につき、講演会を開催し、マーケティングの重要性、事務所運営のノウハウ、IT化による事務体制の効率化等につき、勉強させて頂きました。

12.法曹親和会が政策団体として充実した諸活動を行うには、組織が盤石でなければならないこと、組織として求心力が必要であり、これは、政策団体としての諸活動と裏腹の関係にありますが、それとは別に、会員同志を理解し、共通の認識を共有するためには、親睦活動も重要であり、本年度も、ゴルフ大会、麻雀大会、ボーリング大会、懇親会などを開催しましたが、多くの会員と親睦を図りながら、組織強化をしていくためには、更に、様々な行事を企画、実行していく必要があります。

又、法曹親和会の活動状況を広く会内外に広報する必要があり、又、広報方法につき電子化移行も検討する必要があり、広報については、木田卓寿広報委員長のもとで会報「親和」の編纂発行にご尽力を頂き、又、IT委員会では中村博明委員長のもと、広報のあり様につきご検討を頂きました。今後も、時代に相応した広報のあり方を検討していく必要があると思います。

13.法曹親和会の政策を実現するため、および、法曹親和会の求心力を高めるためには、適切な人材を適切なところに送り出す必要があります。本年度は、当初は塩川治郎人事委員長のもと、後半は渕上玲子人事委員長のもと、適切な人事銓衡にあたって頂きました。かかる中、元日弁連会長の堂野達也先生がお亡くなりになったことは、誠に、寂しい限りであります。心より、ご冥福をお祈りします。

ところで、本年度は、山岸憲司先生が東弁会長として、蒲野宏之先生、宇多正行先生が東弁副会長として、又、山田宣郷先生が東弁監事として、それぞれ、立派に活躍をされました。

次年度の東弁の副会長としては、二一会の若松巌先生、東京法曹会の山田正記先生、法曹大同会の上田智司先生が、又、監事としては、水上博喜先生が就任予定であり、その活躍が期待されています。法曹親和会としても、その活動を支援していく必要があります。

又、須藤正彦先生が最高裁判所判事にご就任され、益々のご活躍が期待されています。

又、次年度の法曹親和会の幹事長には会務の大ベテランの高中正彦先生、事務総長には本年度の政策綱領部会長の関本隆史先生が、そして、親和全期会では、代表に兼川真紀先生、事務局長に堂野達之先生が就任される予定であり、大いなる活躍を期待しています。

14.この一年間、正に、激動の一年間でしたが、大過なく過ごせましたのは、及川健二事務総長、林史雄二一会幹事長、冨田秀実法曹大同会幹事長、山中尚邦東京法曹会幹事長を初めとする副幹事長、事務次長、常任幹事の先生方、および、親和全期会の一宮正寿代表幹事、山本昌平事務局長、並びに、法曹親和会の先生方おひとり、お一人のご協力があったからこそであり、ここに改めて、感謝申し上げます。

一年間、本当に、有り難うございました。